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那覇地方裁判所 昭和53年(行ウ)1号 判決

原告 蘇瑞姫 ほか一名

被告 法務大臣 ほか一名

代理人 渡嘉敷唯正 幸喜令雄 比嘉俊雅 ほか三名

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告那覇入国管理事務所主任審査官(以下「被告主任審査官」という。)が昭和五三年二月二五日付で原告らに対して退去強制令書の発付処分(以下「本件令書発付処分」という。)はこれを取り消す。

2  被告法務大臣が昭和五三年二月二〇日付で原告らに対してした原告らの出入国管理令(以下「令」という。)第四九条第一項の規定に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告蘇瑞姫は、西暦一九四九年四月一〇日中国台湾省彰化県において、父蘇章、母蘇琴細の長女として出生した外国人であるが、昭和四三年沖繩輸出パインナツプル組合が行なつたパイン女工募集に応募し、同年八月「技術入域者」(当時の米国民政府布令第一二五号琉球列島出入管理令第一一条第三号(五)の「技術入域者」)に該当するとして入域・在留の許可を受けて石垣港から日本復帰前の沖繩に入域し、石垣市所在の沖繩缶詰株式会社及び名護市所在の農連パイン工場で稼働した後、同年一二月雇用期間満了により台湾(中華民国)に帰国したのを初めとして、毎年「技術入域者」の資格で入域し、パイン女工として稼働してきた。同原告は昭和四七年四月にも右同様にして沖繩に入域したが、昭和四七年五月一五日沖繩の日本復帰にともない同年八月五日以降は令第四条第一項第一六号、同条第二項、特定の在留資格及びその在留期間を定める省令第一項第三号による在留期間を一年とする在留資格(以下この在留資格を「四―一―一六―三」という。)を取得して本邦に在留し、その後は毎年在留期間の更新の許可を受けてパイン女工として働いてきた。

昭和五〇年ころ同原告はパイン女工を辞めて石垣市内所在の東郷木成経営の中華料理店「蓬莱閣」で働くようになつたが、在留期間更新の許可申請に際しては石垣島製糖株式会社との間の架空の雇用契約書を提出して転職の承認を得ないまま右許可を受けた。原告蘇瑞姫は、蓬莱閣で働いているうちに経営者の東郷木成と情交関係を生じ、同人との間に昭和五一年六月一一日原告蘇嘉奈が出生し、同原告は、同年八月一一日付で原告蘇瑞姫と同じ「四―一―一六―三」による在留期間一年の在留資格を取得した。

その後、被告法務大臣は、原告らの在留期間の更新許可申請に対し、昭和五二年一〇月二一日付で出国準備のためとして一二〇日間の在留期間更新を許可し、さらに昭和五三年一月六日付で再度出国準備期間として六〇日間の在留期間更新を許可したにとどまり、原告らの同年一月三一日付の在留期間更新許可申請については、同年二月二日付でこれを不許可として、原告らに対して、以後不法残留となる旨を告知した。

2  原告らは、那覇入国管理事務所石垣港出張所入国審査官から、原告蘇瑞姫については昭和五三年二月六日付で、原告蘇嘉奈については同月八日付でいずれも令第二四条第四号ロに該当すると認定されたので、口頭審査の請求をしたところ、特別審理官は右入国審査官の認定には誤りがない旨の判定をした。そこで、原告らは、被告法務大臣に対し令第四九条第一項の規定による異議の申出をしたが、被告法務大臣は、昭和五三年二月二〇日付で右異議の申出は理由がない旨の本件裁決をし、次いで被告主任審査官は同月二五日付で原告らに対し本件令書発付処分をした。

3  しかしながら、本件裁決及び令書発付処分は、次の理由によりいずれも違法である。

(一) 確立された国際法規ないし憲法第九八条第二項違反

原告蘇瑞姫は、原告蘇嘉奈が出生した直後から本邦に永住することを決意し、昭和五一年九月一日中華民国の国籍を離脱したのに引き続き昭和五二年二月二四日中華人民共和国の国籍も離脱して無国籍となり、他方、原告蘇嘉奈も昭和五一年一二月二一日中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となつたが、このことは中華民国にとつてはその存在を容認しえない敵国ないしは反乱者である中華人民共和国を原告らが事実上承認したことを意味するものである。したがつて原告らは中華民国に強制送還されれば、同国政府当局から同国の懲治叛乱条例等による処罰あるいは政治的意図による不利益を受け、その生命、身体が重大な危険にさらされるおそれがある。即ち、原告らは政治難民である。

したがつて、本件裁決は政治難民である原告らを迫害の待つ中華民国に送還することになるものであるから、政治難民を保護するとの確立された国際慣習法(難民の地位に関する条約第一条A項(2)参照)ないし憲法第九八条第二項に違反するものであり、また、右違法な裁決に基づいてなされた本件令書発付処分も違法である。

(二) 裁量権の範囲の逸脱またはその濫用

(1) 原告らは、本件裁決及び令書発付処分により中華民国に強制送還されることになると前記3の(一)のとおり懲治叛乱条例等による処罰あるいは政治的意図による不利益を受け、その生命、身体等が重大な危険にさらされるおそれがあるほか、左記(2)(3)の事情も存する。

(2) 原告蘇瑞姫は、本件令書発付当時妊娠九か月の身重であり、そのうえ低血圧、貧血症を併発していたため、到底右令書の執行に耐えうる状態ではなかつた。

(3) 被告らは、前記1のように〈1〉原告蘇瑞姫が転職の承認を受けなかつたことや〈2〉妻子ある東郷木成との間に原告蘇嘉奈をもうけて家庭紛争をおこしたことのほか、〈3〉原告蘇瑞姫が他の複数の日本人男性と情交関係を持つた(これは後述のとおりで虚偽の事実である。)ことを理由に、原告らに対して本件令書発付処分等を行なつたものと思われる。

しかし原告らは、前記3の(一)のように無国籍となつて本邦に帰化する手続を真剣に進めていたのであり、また、右〈1〉は東郷木成の指示にしたがつたもので故意によるものではなく、右〈2〉については原告蘇瑞姫は昭和五三年一月三一日の在留期間更新許可申請時においては東郷木成との情交関係を清算していたものであり、同〈3〉は、常日頃、原告蘇瑞姫を追放したいと考える東郷の妻金子らの悪意に満ちた根拠のない風評にすぎない。

(4) 以上に述べた諸事情が存するものであるから、被告法務大臣は本件裁決をするに際し、令第五〇条第一項に基づき原告らに対し特別在留許可を与えるべきであるのに、これを付与することなく本件裁決をした。よつて、同裁決は裁量権の範囲を逸脱したか、または裁量権を濫用したものであつて違法である。また、被告主任審査官のした本件令書発付処分も、右裁決を前提としてなされたものであるから違法である。

4  よつて、原告らは本件裁決及び令書発付処分の各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  請求原因3の(一)の主張は争う。但し、原告蘇瑞姫が昭和五一年九月一日中華民国の国籍を離脱したのに引き続き昭和五二年二月二四日中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となつたこと、原告蘇嘉奈が昭和五一年一二月二一日中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となつた事実は認め、その余の事実は不知。

3  請求原因3の(二)について

(1)は否認する。

(2)のうち、原告蘇瑞姫が本件令書発付当時妊娠九か月の身重であつたことは認め、低血圧、貧血症を併発していたことは不知、その余は争う。

(3) 後段のうち、原告らが無国籍となつたことは認め、その余は否認する。

(4)の主張は争う。

三  被告らの主張

1  請求原因3の(一)及び(二)の(1)に対し

原告らが国籍を離脱したのは被告らの行為ないしは強制によるものではなく原告らの自由意思によるものであつて、しかもこれは本邦への在留継続を図るための工作であるから、国籍離脱の結果について被告らが責任を問われるいわれはない。また、在沖繩民間団体である琉球華僑総会は、原告らの母国である中華民国が原告らを快よく受け入れる旨言明しているのであるから、原告らが同国において政治的迫害を受けるとは到底考えられない。

2  請求原因3の(二)の(2)に対し

原告蘇瑞姫が身重であることは、本件令書発付処分の執行の問題であり、本件裁決や令書発付処分の違法事由とはなり得ない。ただ付言すれば、原告蘇瑞姫の出産予定日は本件令書発付処分の日から約一か月後の三月二一日であり(実際の出産は三月二八日)、妊娠九か月の同原告が石垣港から台湾まで八時間の船旅に耐えられないとは必ずしも考えられない。そればかりか、被告法務大臣は原告らに対し二度にわたつて在留期間更新を許可して合計一八〇日の出国準備期間を与えていたにも拘らず、原告らはあえてその期間内に出国しなかつたのである。もし、原告蘇瑞姫が本件各処分当時直ちに強制送還されることにより同原告の生命身体に危険があり、特別在留許可をしないことが裁量権の濫用になるとの議論が正しいなら、不法残留者の「ごね得」がまかり通ることになり、正常な入管行政は不可能になる。

3  請求原因3の(二)の(3)に対し

原告蘇瑞姫は数件にのぼる異性問題で他人の平和な家庭を乱し、現在においてもなお妻子ある東郷木成と不倫な情交関係を継続しており、同原告のこのような行為は社会的にも決して肯定されうるものではない。

4  したがつて、本件裁決及び令書発付処分は国際慣習法ないし憲法第九八条第二項に違反するものではなく、また、被告法務大臣が原告らに対し在留の特別許可を与えなかつたことについては、何ら裁量権の濫用はない。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがなく、同1の事実によれば、原告らがいずれも令第二四条第四号ロに該当することは明らかである。

二  そこで、本件裁決及び令書発付処分が違法であるとする原告らの各主張について順次判断する。

1  確立された国際法規ないし憲法第九八条第二項違反の主張について

原告蘇瑞姫が昭和五一年九月一日中華民国の国籍を離脱し、さらに昭和五二年二月二四日中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となつたこと及び原告蘇嘉奈が昭和五一年一二月二一日中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となつたことは当事者間に争いがない。原告らは、右のように中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となるということは、中華民国にとつて敵国ないし反乱者である中華人民共和国を原告らが事実上承認することを意味するものであるから、本件裁決及び令書発付処分による中華民国に送還されることになると同国の懲治叛乱条例等によつて処罰されあるいは政治的意図による不利益を受け、その生命、身体が重大な危険にさらされるおそれがある旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえつて<証拠略>及び証人東郷金子の証言を総合すると、東郷金子が昭和五二年一〇月ころ中華民国に旅行して原告蘇瑞姫の父蘇章と会つた際、同人は東郷金子に対し「復籍はすぐできるので瑞姫を帰してくれ。」「国籍の方は問題ない。」と話していたこと、中華民国の国籍を離脱し、さらに昭和五一年二月二五日中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となつた秦蘭生なる者は、昭和五三年二月一二日本邦を出国して中華民国に渡航し、同月二二日無事本邦に帰つて来ていること及び琉球華僑総会事務局長茫徳助は原告らが中華民国に送還されても迫害を受けるということは全くない旨確約していることが認められ、これらの事実に加えて、原告蘇瑞姫本人尋問の結果によれば原告らが前記のように無国籍となつたのはわが国に帰化するためであるにすぎず政治的意図など全く有していないことが認められるうえに、原告らが中華民国ないしはわが国において中華民国の利益に反する政治活動をしたりあるいは政治的意見を有していたことを窺わせるような証拠が全くないことからすれば、原告らが中華民国に送還されたとしても、中華人民共和国の国籍を離脱したということを理由として、中華民国の懲治叛乱条例その他の法律により処罰されあるいは政治的意図により不利益を受け、その生命、身体が重大な危険にさらされるおそれはないものと認められるところである。中華民国に在住する原告蘇瑞姫の妹である蘇美玲から同原告宛の手紙(<証拠略>)には、同原告が帰国したら前記国籍離脱を理由に逮捕され終身監禁される旨記載されており、また、同原告本人尋問において同原告は、右美玲が同原告への電話で、中華人民共和国の国籍の離脱者である同原告が強制送還されるので注意せよとの内容の警察の公文書を見たと話していた旨供述し、証人東郷木成も右供述に沿う証言(第一回)をするが、これらはいずれも前記各証拠と対比して信用することができない。

そうすると、原告らは政治的理由等のため中華民国において迫害を受ける十分な根拠があり、この恐怖のためわが国に入国ないしは在留しているものであるということはできない。したがつて原告らがそのようないわゆる政治難民であることを前提とする原告らの主張は、その前提を欠くものであつて失当である。

2  裁量権の濫用または逸脱の主張について

(一)  法務大臣が令第五〇条第一項に基づき外国人に対して与える特別在留許可は、規定の文言上も性質上もその自由裁量に属するもので、単に異議申立人の個人的事情だけでなく、国際情勢、外交政策等一切の事情を総合的に考慮のうえ、個別的に決定される措置であり、その裁量の範囲は広く、それが著しく人道に反するとか、甚しく正義の観念にもとるといつたような例外的な場合にのみ、裁量権の濫用または逸脱があつたものとして違法となるに過ぎないと解するのが相当である。

以上の見地から、本件裁決処分の適否を検討する。

(二)  原告らは、原告らが中華民国に強制送還されると懲治叛乱条例等によつて処罰を受けあるいは政治的意図による不利益を受け、その生命、身体等が重大な危険にさらされるおそれがあると主張するが、そのようなおそれのないことは前記二の1で判断したとおりである。

(三)  また、原告らは、原告蘇瑞姫が本件令書発付当時身重であり、また同原告が貧血症、低血圧症を有する旨を主張するが、それらは本件令書発付処分の執行方法に関連する問題となるにすぎず、それら自体が本件裁決において特別在留許可をすべきか否かの裁量権の濫用の存否に影響するものでないことは明らかである。

(四)  さらに原告らは請求原因3(二)(3)のとおりの事情を主張するところ、この点については<証拠略>、証人東郷木成(第一、二回)、同高那菜子、同東郷金子の各証言及び原告蘇瑞姫本人尋問の結果を総合して、次の事実を認めることができる。即ち、中華民国には原告蘇瑞姫の両親のほかに兄弟七人が在住し、父蘇章は公務員であること、原告蘇瑞姫は、石垣市内所在の沖繩缶詰株式会社で働くかたわら、昭和四九年一二月ころから同僚の高那菜子(わが国に帰化前の旧氏名は瀬菜)とともに蓬莱閣でアルバイトとして働いていたが、同社から右アルバイトを辞めるように強く言われたため、昭和五〇年一月ころ同社を退職し、右高那と一緒に蓬莱閣で正式に働くようになり、同年二月ころからは東郷木成の妻金子が台湾に旅行したこともあつて蓬莱閣に右高那とともに住み込むようになつたこと、その後間もなく、原告蘇瑞姫は東郷木成から半ば強制的に情交関係を持たされ、これを継続しているうちに懐妊し、昭和五一年六月一一日那覇市内で原告蘇嘉奈を出産したこと、原告蘇瑞姫は、昭和五一年一〇月ころから東郷木成の借りた石垣市内の仲嶺アパートに原告蘇嘉奈とともに住み、東郷木成の援助を受けて生活していたが、昭和五二年六月ころ同人の勧めにより原告蘇嘉奈を連れて蓬莱閣に居住するようになつたものの、東郷木成の妻金子との折り合いが悪く、同年八月ころ蓬莱閣を出て、後を追つて来た東郷木成と共に同市内の民宿新栄荘で生活するようになつたこと、その後一か月位して東郷木成は蓬莱閣に戻つたが、原告蘇瑞姫は、後記養親の広田智祥方(同人の妻で養母の千代は同原告の従姉妹)に原告蘇嘉奈とともに身を寄せ、その後も東郷木成と情交関係を継続した結果第二子を懐妊するに至つたこと、原告らは、わが国に永住することを希望しており、そのため原告蘇瑞姫は昭和五〇年一〇月二八日広田智祥夫婦と養子縁組をし、さらに昭和五一年九月一日中華民国の国籍を、昭和五二年二月二四日中華人民共和国の国籍をそれぞれ離脱して無国籍となり、原告蘇嘉奈は昭和五一年一二月二一日中華人民共和国の国籍を離脱して無国籍となつた(右各国籍離脱の事実は当事者間に争いがない。)こと、東郷木成夫婦の間には、三人の子供のほかに養女一人がおり、夫婦で蓬莱閣を経営し円満に生活していたが、昭和五一年七月ころ妻金子が夫木成と原告蘇瑞姫との関係を知つてからは、夫婦喧嘩が断えず、蓬莱閣の経営にも支障を来たしていること、以上の各事実が認められる。言い換えれば、原告蘇瑞姫はもともと中華民国で成長した者であつて、本邦へはいわゆる出稼に来ていたに過ぎなかつたが、在留中に妻子ある東郷木成と愛人関係を持つに至り、同人との間に原告蘇嘉奈をもうけたため、本邦に永住したいという意向を持つに至つたこと、このため東郷夫婦の経営する店舗の営業及び家庭生活は破綻の危険に瀕していること、他方、原告蘇瑞姫の両親、兄弟は全て中華民国で生活しており、また原告蘇嘉奈はこれまで原告蘇瑞姫によつて養育されてきて、将来も同原告によつて養育されるのが望ましいことが認められる。被告らの主張するような、原告蘇瑞姫が複数の日本人と異性問題を起こしたとの事実を認めるに足りる適確な証拠はないものの、右認定事実によれば、被告法務大臣の本件裁決に裁量権の濫用があるとはいえず、むしろ本件裁決にはそれなりの合理性があるというべきである。このことは、原告蘇瑞姫が東郷木成との愛人関係を清算したとの原告ら主張事実が仮りに真実としても、影響を受けるものではない。

ただ、原告らに対し本邦から退去を強制することにより、幼い原告蘇嘉奈とその父親である東郷木成とを異国に引き離すことになり同原告の養育にとつて好ましくない影響を与える結果となるであろうこと及び東郷木成との間に生まれた原告蘇瑞姫の第二子は、出生時に母親の同原告が無国籍であつたために日本国籍を取得し(国籍法第二条第四号)、第一子の原告蘇嘉奈とは反対に母親の原告蘇瑞姫と中華民国において常に生活を共にすることは困難であろうことが考えられ、この点に関しては原告らに同情の念も禁じ得ないが、それらは原告蘇瑞姫が自ら招いたことであり、殊に第二子の問題は本件裁決及び令書発付処分後のことであるから、原告らはこれを甘受せざるを得ないというべきである。

(五)  そして、他に被告法務大臣が特別在留許可を与えなかつたことが著しく人道に反するとか、甚しく正義にもとるとの事実を窺わせるに足りる証拠もない。よつて本件裁決に裁量権の範囲の逸脱または濫用があつたということはできず、その後行処分たる本件令書発付処分にも違法はない。

三  よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮城藤義 陶山博生 岡光民雄)

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